植物油から抽出されたビタミンE(天然トコフェロール)は空気中で酸素と結合しやすいため、不飽和脂肪酸やカロチンなど酸化しやすい食品の酸化を防ぐ抗酸化剤として用いられる。一方α-トコフェロールと酢酸をエステル結合させて化学合成した酢酸dl-α-トコフェロール(アルファトコフェロールアセテート)は空気中で酸化されないため食品への抗酸化効果を持たず、体内に摂り込まれて分解後にα-トコフェロールとして吸収されるため、ビタミンE補給目的として用いられる。1)
ビタミンEは細胞膜上で活性酸素と結びつき、細胞膜の酸化を防いで細胞膜を柔軟に保つ役割を担う。犬のビタミンE所要量は健康な成犬で体重1kg当たり1日1.1mg(ヒマワリ油約2.8gに相当)とされ、妊娠・授乳中の母犬ではそれよりも多くのビタミンEが必要とされるが、なにより食餌に含まれる不飽和脂肪酸の量によって必要とされる量は異なる。体内に摂り込まれたビタミンEはわずかな量が肝臓に蓄積され、ビタミンEが不足すると筋肉や心筋などが傷むとされ、その結果成長阻害や運動障害などが現れる。
脂溶性ビタミンの中でも犬のビタミンEへの寛容性はビタミンAやDに比べて高く、これまでに体重1kg当たり1日11mgのα-トコフェロールを4か月にわたって給餌しても何の症状も現れなかったという報告があり、人間を含むほかの動物に比べて過剰症についてはとくに大きな心配はいらない。2)
1) 厚生労働省「d-α-トコフェロール酢酸エステル及びトコフェロール酢酸エステル の食品添加物の指定に関する添加物部会報告書」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0928-5d.pdf
2) H. Meyer, J. Zentek: Ernährung des Hundes, Parey Buchverlag Berlin